小さな体躯を荒れ模様のベッドシーツの波に沈めて、まるで性交のように一緒に溺れてみる。

口付けも何も無い、ただ身を重ねて抱き合うだけの溺没。

皺の寄る真っ白なシーツは更に皺くちゃに、溺れる俺達の体はより密接に、息遣いが分かる距離で俺達は抱き合う。
 
抱き合うことでひとりじゃないと思える。

互いの心音が打ち鳴り伝わってくる度に、俺は心の底から安らぎを覚えた。


手前が原因だとは言え、那智と一晩離れた夜、俺は温もりと愛情に涸渇していた。
 

もしも那智がふたりぼっちの世界に絶望して、新たな世界を見出そうなんて決意したら…。

俺の起こした行動は一か八かの賭けでもあったんだ。

無いとは思っていたが、もしも那智が俺以外の世界を取ろうとしたら…、そう思うだけで俺は恐怖と孤独に震えていた。

思い出した恐怖と孤独が涸渇を生む。

俺は乾きを潤すために腕に閉じ込めている那智を見下ろして、そのままシャツを無造作に剥いて右肩に噛み付く。


最初は甘噛み、でも次第次第に噛む力が強くなっていく。




「兄さまがいない世界は、とても色が無くて寂寞としていました」




俺の頭を抱き締めてくる那智が、不意に語り部となる。

顔を上げれて視線を合わせれば、「ひとりぼっちは怖いです」哀しそうに微笑を零す弟の姿。


「おれは兄さまに必要とされなくなったら、人間という名の価値もなくなるんだって知りました。
おれの存在は兄さまがいてこそ成り立ってるんですね。

―…兄さまのいない世界が怖い」


もうあんな思いしたくない。

身を小さくして、腕で顔を隠す那智に、嗚呼…、ゾッとするほど厭らしく笑う俺がいる。


「兄さまも…、那智の居ない世界が怖ぇよ」


弾力のある腕に噛み付いて、俺は那智の苦言する顔を見つめる。

「ぁ」小さな声音を漏らす那智は、俺から視線を逸らす事ができなくなった。
まるで金縛りのように硬直する。


「言ったろ那智、俺達を理解し合えるのは互いに兄弟だけなんだって。

―…なあ? 那智」