本当はさっさと死んでしまおうと思って、不必要な上着を置いて来たんだけど。
上着…、持ってくれば良かったな。
「君、ひとりかな?」
と、声を掛けられた。
うつらうつら顔を上げれば、小太りの中年おじさんがおれを見下ろしていた。誰?
首を傾げるおれに、ねぐらがないならおじさんと付き合わないかって誘われた。
付き合う? 何処に? ますますワケの分からなくなる。
そんなおれに焦れ、おじさんが腕を掴んでおれを立たせてきた。
驚き竦むおれに、おじさんはニヤリ。
声さえ出せないおれを連れて、近くの路地裏に連れ込む。
鳥井さんの時みたく、また路地裏で襲われるのかって気付いたのは、その直後。
でも今回はもういいかなって気分になった。
だって誰も心配しないし…、おれ、ひとりぼっちになっちゃったし。兄さま傷付けたし(だけどやっぱり怖いなぁ)。
どんなことをされても、もう、兄さまは助けに来ない。
絶対に人が通りそうにない路地裏で、おじさんは、おれの腰らへんを擦ってくる。
身を小さくするおれの耳元で、「五万でどう?」なんて言われた。
意味を理解しておれは困った。
売春なんてする気はないんだけど…、でも抵抗する気も起きない…、ただ身を小さくしてセクハラに堪えていた。
抵抗しない(できない)、おれのシャツを下に引っ張って、右肩を肌蹴させるおじさん。
傷だらけの肩なんだけど、おじさん、なんか興奮してるみたいで息遣いが荒い。舌を這わせてくるから凄く困る。
そして怖い、怖い、すごくっ、…嗚呼、きっとこれは罰なんだ。
兄さまを傷付けた、裏切った、苦しめた、おれへの罰。
「あ」おれの体が壁に押し付けられた。
だらしのない笑みを浮かべてくるおじさんは、耳を齧ってくる。
「ぅ…ゃ…」一々反応するおれにまた興奮。非常に困る。なんで男のおれに欲情するのかな。
這いまわる手が恐いけど拒絶は出来ない。
シャツの中に手が忍び込んでくる。直に触れてくる他人の手、ごつごつとした手がおれの肌を撫で回す。
兄さまの手じゃない他人の手がおれに触ってくる。
嘔吐感が出てくるけど、必死に我慢した。



