「治樹兄さま…、ずっとずっとずっと大好きです。嫌われてもずーっと大好き」
おれは馬鹿みたいに落ち着いて、兄さまに最後の好意の言葉を寄せた。
きっと汚いと思う言葉だろうけど、おれの最後の気持ちだ。
うん、おれは一つ頷いて持っていた携帯をポケットに捻り込むと玄関に向かった。
外出禁止って言われてたけど、それは兄さまの弟に対する心配の念で。
他人のおれに向ける気持ちじゃないから。
寧ろ他人は御用済みだ。
ふらふらっとおれは放浪者のように家を出た。
もう二度と戻ってこないであろう家を一瞥することもなく、ラフな格好で外界へと飛び出した。
それから先はあまり記憶にない。
中学校の前や商店街を通った記憶もあるんだけど、そこもうやむや。
気付けば、いつも兄さまの大学に向かう際使うバス停にいた。
おれは設置されているベンチに腰掛けている。
何時間もベンチに腰掛けているみたいで、おれの体は冷え切っていた。
死のうと何度も思ったけど、結局怖くて何もできない自分がいる。
何度も道路を目にしたのに、兄さまのためなら死ぬことだって怖くない筈なのに、臆病者のおれは結局死ねずにいる。
だからこうやってベンチに腰掛けることしかできなくて…、虚ろに景色を眺めるおれがいた。
夜景が綺麗だ。
空にはお月様が高く上っている。
ぽつんぽつんと瞬いている星も綺麗だ。
あ、お腹減ったなぁ。
昨日の朝から今日の夜に掛けて何も食べてないや。
生理的にお腹は鳴る。
でも食べることを拒むおれがいる。
生きることさえ拒んでいる。
だって兄さまに必要とされていないおれなんて、生きている意味、ないじゃないか。
最後にチョコレートケーキは食べたかったんだけどなぁ。
冷蔵庫に入れっぱなしだ。もう美味しくないよね、二日も経ったケーキって。
あ、バスがまた来た。
けどおれは乗らない。ぼんやりとバス停に腰掛けるだけ。
通過するバスを見やった後、おれは二の腕を擦って身を震わす。
寒い。上着でも持ってくれば良かった。



