「もっかいだけ…兄さまに電話、してみよう」
おれは兄さまの携帯に電話を掛けた。
時間は昼下がりになってたけど、兄さま…出てくれるかな。
何度目かのコールで兄さまは出てくれた。
昨日は絶対に出てくれなかったのにっ、少しだけ嬉しくなった。
少しは赦してくれたのかな。
でもそれはおれの勘違い。
出てくれた瞬間、『うぜぇ』って怒声。
『おい、昨日から電話掛けて来てるんじゃねえぞ。うぜぇな』
あれ?
兄さま、他人のように、おれに…。
『いいか、暫くは電話禁止だ。いいな? おい』
あれれ?
兄さま、名前すら呼んでくれない。
もう他人なのかな、おれ達。
あ、他人だから兄さま、冷たいんだ。
『返事はしろ。そっちから電話してきたんだろが。いいか、今日は帰るから。じゃあな』
―――…。
電話、切られちゃった。
おれはぶらんと両手を垂れ下げて、携帯を手放した。
そして一頻り笑い泣き。
もう笑いしか出てこないや。涙は別にこれ、悲しいわけじゃない。
ただ生理的に流れるだけ。
兄さまが必要としているのは“おれ”じゃない。
汚い子はいらないんだ(綺麗な子が必要なんだ)。
悪い子はいらないんだ(良い子が必要だから)。
那智って子もういらないんだ(兄さまにはもう必要のない子)。
兄さまの望み、綺麗な子、良い子、正直な子が傍にいること。
でもおれは兄さまの望みに何一つそぐわない。
イラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイおれイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイ。
兄さまを困らせる子なんてイラナイ!
傍にいたいけど…、兄さまの望みに何一つ応えられないおれなんて、おれなんてっ!
―…おれなんて…、おれなんて。



