翌日になっても兄さまのご機嫌と、おれに対する態度は変わらなかった。
朝食の準備しても食べてくれなかったし、一緒に食事するのも嫌みたいで、さっさと外出してしまった。
大学に行ったのか、バイトに行ったのか、鳥井さんに会いに行ったのか、それさえも分からない。
黙って外出してしまった。
もしかしたら翌日には機嫌を直してくれたり、なんて思ったけど、愚かな期待だったようだ。
やっぱり良い子になる方法も、綺麗になる方法も分からなくて、おれはションボリ。
兄さまが帰宅したら、もう一回謝って、良い子や綺麗になる方法を教えてもらおうって心に決めた。
取り敢えず、今日は一日家でおとなしくしておこうって決めて、おれは兄さまの喜びそうなことを全部してみた。
家事全般やったし、掃除も隅から隅までやったし、ご飯も兄さまの好きなのを作ろうって昼から仕込みを始めた。
でも兄さま、その日は連絡どころか真夜中になっても家に帰って来なかった。
ぽつんとおれはお留守番。
日付が変わっても帰って来なくて、初めておれは兄さまのいない一日を過ごした。
兄さまは一日だってお傍に置いてくれていたから…、こんなにも離れたことなくて…、おれは不安で不安でいっぱいになった。
電話を掛けても繋がらなかったから、尚更。
寝ずに待ってたけど、兄さまはその日、朝になっても帰ってこなかった。
初めて孤独を経験した。
「これが本当の孤独なんだ」
不安に染まり過ぎていたおれは力なく呟いて、ぐったりと居間の畳み上に寝転がって疲弊。
今まで兄さまがいてくれたから、本当の孤独って分からなかった。
でも今のおれはすごく孤独だった。
兄さまにさえ必要とされていない、寧ろ嫌われてしまった弟ではない下川那智は生きる理由を見失っていた。
当然の報いなのかもしれない。
兄さまを裏切ったんだから…、あんなに兄さまに言われてたのに。他人に気を許すなって。
なのにおれ、他人に気を許して…、徹平くんと過ごす時間が楽しいなんて思って…。
バレないと思ってたけど、やっぱり嘘は駄目だよね。
いつかはバレちゃう。
おれの場合、早過ぎるくらいに早くバレちゃった。



