「嘘つきな弟はイラナイ。
他人を取る那智なんてイラナイ。
俺の知らないところで他人に笑顔向けてる那智なんてイラナイ。

今の那智は汚い」


矢継ぎ早に捲くし立てる兄さま…、ああもう、兄さまにしよう。

そう呼ばせてもらおう。口では治樹さまにするから。


とにもかくにも兄さまは癇癪を起こした子供そのものだった。

惑わされるならまだしも、笑うなんて、嘘をつくなんて言語道断だと兄さまは言う。


おれは心が凍った。

兄さまを傷付けちゃったこと、兄さまを裏切ってしまったこと、兄さまの望まないことをしてしまったこと、バレちゃったんだ。

徹平くんのことバレちゃったんだ。


「那智は悪い子だ、今の那智は汚い、悪い子、悪い子、他人同然だ。

イラナイ。
てめぇ偽物だ。

俺の知ってる那智じゃない。

お前、弟じゃない」



汚い連呼する兄さまは、不機嫌におれを一瞥、さっさと居間に戻った。


兄さまって思わず呼んだら、呼ぶなって突っ返された。果敢にも兄さまを呼んで、腕を掴んだら、「汚い」で突き飛ばされる。


どんなに呼んでも駄目で、触っても駄目で、話し掛けても駄目で。

だけど、どうしても赦してもらいたかったから、兄さまに謝った。


もう二度としないから、裏切るようなことしないからって、何度も、なんども、なんども。


正直、兄さまの望むことなら何でもしたい。


兄さまがイラナイって言うなら、おれは兄さまの前から消えなきゃいけないと思う。

でも、簡単に消えられるほど…、おれも大人じゃないから。


兄さまに、嫌われたくない。

本当に嫌われてしまったら、おれ、もう…。