「誘惑した他人を消す。
那智は何にも悪くねぇしな。
弟を奪う奴は全員、兄さまの敵だ。

だけど逃げたことは見過ごせねぇから、暫くは外出おろか俺の半径三メートル以内から離れさせねぇ。
首輪とリード持ってくるかも。ああ、手錠かもしんねぇ」


狂気染みた言葉は聞きなれた発言。
でも初めて、はじめて、兄さまの言葉に畏怖を感じるおれがいた。
だって愚かにも徹平くんと一緒にいたいと思ったのはおれの方…、だから徹平くんは悪くないのに。

少しだけ兄さまの狂気が怖く感じた。


べつに首輪やリードや手錠に思うことは無いけどさ。
 
 
「手錠、首輪、リード…、そりゃ変態プレイだろ若旦那。てかただのヘ・ン・タ・イ!」


鳥井さんが呆れ交じりの声音を上げた。


「るせぇよ、運転手。
それだけ俺のだって教え込まないといけねぇ状況だってことなんだよ」


だって俺のが離れて行くなんて言語道断だろ?


当たり前のように言う兄さまに、おれは現実と気持ちを改めさせられる。


確かに今、兄さまの狂気染みた気持ちに畏怖を感じた。


だけど、怖いとは思っても、兄さまを嫌うことは出来ない(逆らうなんてとんでもない)。


寧ろ大好きだ。

畏怖の念を抱いても、おれをいつも守ってくれた兄さまのこと、大好き過ぎてどうにかなりそう(狂ってしまいそう)。