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薬品臭さを充満させている保健室はいつものように静かだ。
まるで隔離されているかのように静か。
度々訪問者が静寂を切り裂くようにやって来るけど、四隅で勉強しているおれの元には来ない。
安心して勉強に勤しめる。
それにしても疲れたな。
おれはシャーペンを机上に置いて、凝った肩を解すようにゆっくりと両肩を回す。
さっきまで兄さまにメールを送って、問題集の内容の質問を投げ掛けてたんだけど、ちっとも一次関数が解けなかった。
メールを打ち切って粘ってはみたけど、もう限界だ。
分からないものは分からない。
おれは兄さまのように物分りが良い方じゃないからなぁ。
帰って教えてもらおう。
掛け時計に目を向ける。
あと30分から1時間程度で兄さまが迎えに来てくれる筈だ。
講義が終わったってメールが届いたし。
机上に散らばっている道具を片付け始める。
身支度して、三好先生に帰ることを伝えて、早く昇降口に行こう。
そういえば…、三好先生、保健室にいないみたいだけど…、何処に行ったんだろう?
おれはグルッと保健室を見渡す。
誰もいない保健室はシンと静まり返っていた。
職員室にでも行ったのかな?
あんまり職員室には行きたくないんだけどな…、人がいっぱい居るから。
どうしよう…、溜息をついたその時、
「失礼します」
保健室の扉が開いた。
ビクッと体を震わせるおれは恐る恐る扉の方に目を向ける。
うわぁ…、生徒が立ってる。立ってるよ。
男の子っぽいけど…、うん、目を合わさないようにしよう。
おれは急いでノートと問題集を重ねた。
やけに鼓動が高鳴る。
緊張してるんだと思う。
見知らぬ人が保健室に入って来たから。