× × ×


薬品臭さを充満させている保健室はいつものように静かだ。


まるで隔離されているかのように静か。

度々訪問者が静寂を切り裂くようにやって来るけど、四隅で勉強しているおれの元には来ない。

安心して勉強に勤しめる。

 
それにしても疲れたな。


おれはシャーペンを机上に置いて、凝った肩を解すようにゆっくりと両肩を回す。


さっきまで兄さまにメールを送って、問題集の内容の質問を投げ掛けてたんだけど、ちっとも一次関数が解けなかった。

メールを打ち切って粘ってはみたけど、もう限界だ。


分からないものは分からない。


おれは兄さまのように物分りが良い方じゃないからなぁ。

帰って教えてもらおう。


掛け時計に目を向ける。

あと30分から1時間程度で兄さまが迎えに来てくれる筈だ。

講義が終わったってメールが届いたし。


机上に散らばっている道具を片付け始める。

身支度して、三好先生に帰ることを伝えて、早く昇降口に行こう。


そういえば…、三好先生、保健室にいないみたいだけど…、何処に行ったんだろう?


おれはグルッと保健室を見渡す。

誰もいない保健室はシンと静まり返っていた。

職員室にでも行ったのかな?

あんまり職員室には行きたくないんだけどな…、人がいっぱい居るから。

どうしよう…、溜息をついたその時、


「失礼します」


保健室の扉が開いた。

ビクッと体を震わせるおれは恐る恐る扉の方に目を向ける。


うわぁ…、生徒が立ってる。立ってるよ。

男の子っぽいけど…、うん、目を合わさないようにしよう。


おれは急いでノートと問題集を重ねた。


やけに鼓動が高鳴る。

緊張してるんだと思う。


見知らぬ人が保健室に入って来たから。