「進路に? 正気か?」

「ああ」


「やめとけやめとけ。神経磨り減るぞ、この仕事。
まだ仕事始めて日は浅いし、俺はデビューに失敗したけど、デビュー下準備として先輩の仕事をそれなりに手伝ったことはある。

罪悪に苛むぞ、この仕事は。
まともじゃやっていけねぇよ。

先輩の話によると、罪悪に苛んで自殺する奴も出たとか。
それなりの覚悟と神経を持っておかないと、命の危機もちょいちょい来るし」


若旦那、普通の幸せが消えちまうぜ?

鳥井の言葉に、俺はシニカルに笑みを返した。



「俺はもう、まともじゃねえって。
あんたより、多分、そっちに向いてるような気がする。

俺は他人に罪悪さえ感じない」


「………」


「俺等はこの一年、地獄を抜け出して日々を過ごしてきたが。
まともな幸せっつーのは、俺等には合いそうにねぇ。傍から見りゃ異常だからな」


弟と、

那智と、


二人だけの、



ふたりぼっちの世界を築くには、



普通の生活じゃ無理なのかも知れねぇから。



俺の呟きに鳥井は愛が深い、微苦笑を零してくる。


「はぁー…、その時は俺の勤めてる事務所に紹介状出してやるよ。
若旦那をそうさせてるのは、やっぱ弟なのかねぇ。

俺もそうなるのかなぁ。
そっちの気がありそうで恐い。

んで恋に落ちて欲情。抱く。わぁお、想像できる未来」


てか、そうなったとしたら俺は犯罪者だろ。
俺の弟はまだ八つだってのに!

鳥井は自虐的に笑って肩を竦めた。


余所で俺は車窓の向こうの景色を眺めながら考える。

鳥井のように表社会じゃなく、裏社会で生きれば、那智と完全なふたりぼっち世界になれるんだろうか、と。


まともじゃねえ俺だから、

この日の当る世界じゃ生き難いのかもしんねぇ。


地獄の日々を抜け出しても俺等の幸せ、日の当る世界にはないのかもしんねぇな。


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