「裏社会で生きるって決めたんだ。
罪悪はあるが、人の弟になんざ構ってられねぇ。
身の回りだけで手一杯だからな。

俺の弟は、会社さえ見捨てた不甲斐ない男を馬鹿みたいに必要としてくれてるしな。
死んだ両親さえ、ギャンブルに溺れていて俺のことは冷然に扱っていた。愛してくれなかった。

なのに弟は俺を必要としてくれている」


可愛いもんだ。
施設に顔を見せに行ったら『兄ちゃん兄ちゃん!』なんて、飛び跳ねながら俺に纏わり付いてくる。

帰る時は『また来てね』なんて、涙ぐみながら延々と俺の背中に手を振ってくれる。


嗚呼、なんか俺はちっこいガキに必要と…、んにゃ、愛されてるって気がした。


「だから俺は若旦那を裏切ることはできない。
何故か? 若旦那に殺されたら弟が独りになっちまうからだ。

てことで、忠義を尽くそうと思う。二度とお前の弟にもお前にも危害は加えない。OK?」


―――…。


俺は黙然と鳥井の話を聞いていた。
他人なんざ興味ねぇのに、なんだよ、今の話、完全に同情を煽ってやがる。

なんだよ、気持ちが分かるから余計気分悪いじゃねえか。

胸がざわつく感じがする。

ざわざわと他人の言の葉に、胸がざわついている。


組んでいた腕を解いて、俺は静かに尋ねる。


「なあ、あんたの仕事、儲かるのか?」


話題を変える俺。

鳥井は気にすることも無く返答。


「そりゃ雇い主次第だけどな。ベテラン先輩の話によれば、年収一千万から二千万だとか。なんで?」

「いや、進路に入れておこうと思って」


鳥井は目を丸くした。

思わず俺の方を見てくる。

前見ろ、運転中だろうが。