【自宅の居間にて】
(PM07:23)



「―――…那智、今日の夕飯は見事に面白いな。兄さまも恐れ入る夕飯だ」

「え? どーしてです?」



那智はキョトンとした顔で俺を見てきた。
いつもどおりの那智だけど、どーやら昼間の鳥井と母親の一件が那智の情緒を不安定にさせているらしい。


家に帰ってからどうも、那智の様子がおかしいとは思ったんだよな。


変に饒舌になっていて、俺以外の奴に話しかけてるんだ。
那智と俺以外、勿論部屋に人が居るわけない。那智はしきりに観葉植物に話しかけていた。


ある臨界点を超えると、那智は妙に常識から飛び外れたことをしてくれる。

ンでもってすげぇ子供、甘えたがり屋になる。


俺がぶっ飛んだらガキになるって那智は教えてくれるけど、那智もまた、情緒不安定になったらぶっ飛んでガキになりがち。
そして多分、俺以上に予想だにしないことをしでかすだろう。

普段の本人にも見て欲しいほどの、なかなかのぶっ飛びっぷりだ。


目前の夕飯がそうだ。

美味そうに飯は出来てるのに、惜しい、入れる器が間違ってる。


「マグカップに白飯。茶碗に味噌汁。湯飲みに焼き餃子。サラダはー…、フライパンに盛ってくれてるわけか。なかなかユニークでいいと思う。
で、サラダにはドレッシングっぽいのが…なんかちげぇな」


「あ、それサラダ油です。引いて炒めようかな? って思ったんですけど、やっぱり、やめちゃいました。
気分的に生サラダでしたので。それはその残骸です」


「ああ、なるほど」


だけどそれを食うにはちょっときついぞ、那智。


「二度とお目にかかれない光景だな。今日の夕飯」

「え、そ、そうですか。兄さまに褒められました」


えへへ、と喜ぶ那智だけど、兄さまは褒めてるわけでも喜んでいるわけでもないんだ。
ちょいとばかし、嘘、随分と驚いてるんだ。うん。

だけどもういいや、器なんて関係ねぇや。

な? 食えりゃ一緒だ。


ま…、サラダだけは無理だろうけど。