「那智…」
弟の体を建物の湿ったコンクリート壁に押し付ける。
小さな弟を見下ろし、猫背になって、抱き締めていた、その赤く汚れた手で、那智の頬を触った。
まだ完全に乾いていない手、弟の白い肌に赤い筋ができる。
薄っすらと汚れた。
俺と同じように汚れた。赤く汚れた。
漆黒の両眼に見つめ返される。
片割れは綻んで、俺の宙を彷徨う手を取る。両手を取られた。
「兄さま、もっと」
言われて、俺は微笑する。
何だよ、いつの間にかお気に入りじゃねえか。
お互いにドキドキも何もしねぇのにな、キスなんざ。
あれだな、抱擁プラス何かを付け足すことで、俺達は満たされようとしているのかもしんねぇ。
―…もし、それさえ足りなくなったら?
いつか、俺は弟を抱くんだろうか?
抱かれるなんざ、想像も付かないから、那智には悪いけどその日が来るなら、俺は抱かせてもらう。
だけど、
俺の唯一の味方である弟を、抱いてしまう日、来るんだろうか?
揺ぎ無い愛情表現を確かめるために。
楔を刺すために。
背徳なことをするんだろうか。
あ、もう、なんでもいいや、那智といられるなら…、なんでも。
⇒07