これ以上、喋る必要性も無い。
俺は那智と共に、福島を置いて工場を後にした。
福島の気配は感じられなかった。
きっと追い駆けることさえできなかったんだろうな、恐くてさ。
なるべく人通りの無い路地裏を通って、俺等は我が家を目指す。
那智と手を繋ぎたいけど、手が汚れちまってるから繋げない状況にあった。代わりに那智に話し掛ける。
那智は切り裂かれた下着から見える肌を隠すように、学ランの上衣を片手で締めておいた。
ボタンを留めたいけど、鳥井にボタンを切り取られてるから留められないんだ。
「恐い思いをさせたな、那智」
犯人を突き止めるとは言え、那智には恐い思いをさせてしまった。
あんな茶番劇につき合わせるつもりは無かったんだけど、相手は那智を狙ってたみたいだからな。
とはいえ、那智に恐怖心を与えてしまった。
俺は何度も謝罪をした。
けど那智は小さく首を横に振る。
「兄さまが傍に居るって分かってたので、恐かったけど、ヘーキでした」
それより、鳥井さんを雇った人に憎しみと悲しみを覚える。
那智は静かに吐露した。
同意見だった。
結局、地獄から抜け出しても地獄は追ってくるものなのか。
だったら完全に断ち切らないと…、嗚呼、あんなに脅したのに、まだ俺等を虐げようとするなんて。
向こうの母性愛。
皆無。
こっちの親孝行。
皆無。
両方に家族愛。
か い む 。
互いに湧いてくるのは憎悪だけ。
―…今度はこっちが虐げでもいいよな、これだけされてるんだし。



