「てめぇに選択肢をやる」
「は…っ…? 何を」
思ってもいない台詞だったのか、男は瞠目。
俺は構わず話を続ける。
「選択肢は二つ。
寝返って俺に雇われるか、それとも此処で命散らすか。
正直、俺はてめぇを八つ裂きにしてやりてぇ。てめぇが調べたとおり、俺は弟至上主義。弟を奪う奴は容赦なく殺してやる。
例えば俺が罪科を負うことになったとしても、俺はてめぇを殺すことに後ろめたさも何もねぇ」
俺は弟と一緒にいられるなら悪人にだって罪人だってなれる。
嘘偽りない言の葉に、男は呆気に取られているようだった。
恐怖すらもう感じないよう、「お前すげぇな」なんてお褒めの言葉を貰った。
ちっとも嬉しくねぇよ。
間を置いて、男は名乗った。
鳥井 政志(とりい まさし)と。
どちらの選択肢を取ったかは、名乗ることで一目瞭然だ。
偽名を使っているかどうかは、俺が男のジャケットの財布を抜き取って真偽が分かる。免許書には確かに鳥井 政志。本名らしい。
ま、これも疑わしいとこだけどな。
住所も信用ならねぇけど、一応没収だ。
お? 保険証があるじゃねえか。
これなら信用できるかも。これも一応没収だ。
フン、鼻を鳴らす俺はナイフを抜き取って、滴る血をそのままにナイフを折り畳む。
んでもって一発顔面に蹴り。
「イッデェ!」
何するんだとばかりに顔面を押さえる鳥井は軽く赤い鼻汁を流出。
俺は片眉をつり上げた。
「てめぇは弟に何してくれようとした。
傷付けた挙句、ベッタベタと触りやがって。肌なんざ俺しか見ることを赦されねぇんだよ。
ちなみに俺は弟を抱いたことはねぇ。俺等は恋人じゃねえからな。ま、そう思ってもらっても構わないが。
それより、てめぇ、今この時点で契約は交わされたからな。
契約違反の報復はてめぇの命と、てめぇ周辺の人間の命、いいな?
俺は顔が広くてな。てめぇが逃げようとも、探し出してやるから、そこのところヨロシク」
「おま…悪魔みたいな奴だな」
「どうとでも。俺は他人より自分と弟が可愛いものだから」



