「幾らで俺等の命を買いやがった?」
男は守秘義務を忘れているらしい。
ヒィヒィと悲鳴を漏らし、ぺらぺらぺらと喋ってくれる。
相当俺の言動が歪んでるのか、恐怖のあまりか、体は全身微動、まるで携帯のバイブみてぇにブルブル。
一人百万、二人合わせて二百万。
命を取るまでしなくとも、俺等を再起不能にするまで追い詰めるよう言われたとか。
那智を狙ったのは俺を再起不能にするため。
那智には死んでもらうつもり予定だったとか。
弟至上主義の兄は弟が傷付いたり、ましてや死亡でもしたら廃人と化すから。
喧嘩慣れしている兄貴を直接的に襲うよりかは、そうやって精神的に追い詰めた方が効果的だと男は考えたらしい。
ほぉー、随分下調べしてるじゃねえか。
ご名答だ。花丸満点。
じゃあ、ここら先が最重要ポイント。
俺から那智を奪って、もしも失敗したらどうなるかは考えたのか?
「俺から那智を奪う。そりゃ命で償ってもらうのが道理ってものだよな」
付着したナイフの血液を舐め取る。
不味い、汚い、他人の味がする。
「俺はな、他人を痛めつけることに恐怖も罪悪もねぇんだ。
ガキの頃にどーも螺子が飛んじまってるみてぇでな。他人に対して思うこともねぇ」
「っ…」
「だけど、那智と居られなくなるのはやだしな。
どーしようかなぁ。てめぇの始末。
こっそり埋めてやるか。工場の裏にでも」
愉快ゆかい。
那智を傷付けた輩が恐怖に呼吸困難になりかけ。かなり愉快だ。
フッと俺は笑声を漏らし、そのまま相手に馬乗りになって右肩にゆっくりとナイフの刃先を埋めていく。
ズズッ…、ズズッ…、沈んでいく刃先、痛み足掻く男。無情になる俺。
酸欠になったみてぇに口を開閉させる男は抵抗をみせてくるけど、相手の抵抗なんて高が知れてる。
赤子の手を捻るように、手首を捻って俺はニンマリ。



