俺は相手に気付かれぬよう、後を付けた。
男は人目を気にするように周囲にキョロキョロ。
右に視線を流しては左へ、左に視線を流しては右へ、とにもかくにも忙しない。
落ち着きが無い、とでも言おうか。
いつでも飛び出せる一定の距離を保ちつつ、尚且つ相手に気付かれないよう自販機、電柱、駐車違反している車等々、体を隠せる場所から場所に移る。
探偵ごっこみてぇだが、俺は既に高校で嫌って程、この行為をやって来た。
両親を脅すために、あらゆる角度から追い詰めるために喧嘩やら、情報収集やら、尾行やら…。
尾行をプロっちまった今の俺なら、きっとストーカーにだってなれるに違いねぇ。
俺には那智がいるからしねぇけどな。
相変わらず那智は恐怖に顔を引き攣らせていた。
けど、何処となく落ち着いてはいる。前へ前へと歩く男の後を一生懸命について行く。
どーでもいいけど、男が那智に触れてる…、嫌悪感が湧き水のように溢れかえってるんだけど。
穏やかな住宅街を抜け、男は早足で那智を近くの廃棄工場(こうば)に連れ込む。
倒産した工場はもぬけの殻。人の気配が無い。
そして工場周辺は住宅街からやや離れている。周辺は殺風景な空き地や、駐車場ばっか。
大声を出したとしても、よっぽど人が通り掛って、且つ、勇敢な性格でなければ助けはやって来ないだろう。
わりと都会に住む俺等だが、都会にも何処かしら死角ってのは存在する。
相手は見事に都会の死角を突いたようだ。
工場の奥地、ドラム缶が積み上げられた山々の前で男は足を止める。
瞬間、腕を掴んでいる那智の、かの細い両手首を掴んでドラム缶の山の一角に体を押し付ける。
ひゅっと悲鳴さえ上げられない那智は、ドラム缶の上に乗り上げた。
缶の角に体をぶつけたのか痛みに堪える(昨晩の名残があるんだろう、マジごめん那智)。
那智は痛みと恐怖、両方に体を微動させて男をそっと見つめた。
男はようやく終わる、と言った顔でポケットに手を忍ばせる。



