ギィ…、ギィ………ィ。
悲鳴を止ませるようにゆらっと公園に若い男が現れた。
周囲に警戒をしながら、早足で歩く姿は何処と無く緊張感が漂っている。
挙動不審とも言える警戒心を四方八方に向けながら、男は切迫した顔で猫背の前姿勢を保ちつつ那智に近付く。
俺は目を眇めて、福島に此処にいるよう命令。
抜き足差し足忍び足で身を隠しながら、公園の様子を窺う。聞き耳も立てる。
今のところは静寂だ。
ブランコの錆びついた悲鳴しか聞こえない。
だけど、「ちょっといいかな」男が那智に声を掛けたことによって、静寂はぶっつり。
那智はブランコを止めて、男の顔を見上げる。
顔が恐怖に慄いた。血の気は無くなり、顔面蒼白という表現が相応しい顔色をしている。
それは明らかに相手をお見知り置きしているであろう表情。
男も那智をお見知り置きしているのか、恐怖に引き攣った那智に対して、だらしのない歪んだ笑み
俺がいないことをいいことに、相手は強気に出ているようだ。
今度こそ仕留める、声無き声が俺の脳裏に届いたような気がした。
ポケットに忍ばせていた折りたたみ式果物ナイフを那智の柔らかい首筋に突きつけて、一緒に来るよう脅している。
ヒッ、悲鳴さえ上げられない那智は身を小さくして、首をガクガクガク。
嗚呼、ごめん那智。
だけど大丈夫、てめぇを傷付けさせやしないから。
「兄さま…っ」
弱々しく呼ばれて、俺の全身神経が反応する。
できることなら直ぐにでも行ってやりたい。
「兄さまは今、彼女さんと出て行ったもんなぁ。置いて行かれちまって可哀想に」
おっと、俺の名演技が相手に効いたようだ。
ま、俺のことを良く知る奴にとっちゃ、俺の演技は大根そのものだと思うけどな。
さあ、早く来い。
男に脅されて那智は荷物を取りに行くことさえ赦されず、腕を掴まれて、ブランコから引き摺り下ろされる。
そのまま男は那智を連れて公園を後にする。
果物ナイフは一時的に仕舞ったようだけど、渾身の力で掴んでいるのか、那智の眉根は寄ったまま。
まだ傷付ける様子は無さそうだ。
ということは人目のないところで…、だったら都合がいい。



