―――…俺等は福島の言うとおり、プリザーブドフラワーなのかもしれねぇな。
俺等は、いつまでも居心地の良い環境を保とうとする。
二人っきりの世界で生きてきた俺等だ。
外界からやって来る繋がりの一切を断ち切って生きてきた。
これからもそうするだろうし、那智が成長し始めた今、俺は那智の視野を狭めようと躍起になる。
那智はある程度、目に飛び込む世界に対して識別する能力を持ってきた。
何かに興味を持つ年頃でもあるから、俺は今まで以上に那智を束縛する。
そうやってプリザーブドフラワーのように、いつまでも瑞々しい二人だけの世界で生きようとする。
その均衡が崩れた時、俺等はプリザーブドフラワーのように色褪せて朽ちていくんだろうな。
歪んじまってるな…、俺等は。
いや俺が歪んでるんだろうな。
那智の世界を外界から隔離しようとしてるんだから…、けどそうしないと俺が生きてられなくなる。
生きるって難しいな。ほんと。
「どうしたの? 下川。あんた、さっきからダンマリだけど」
訝しげな顔で福島に声を掛けられた。
「別に」
俺は素っ気無く返して焼きドーナツを頬張る。
俺の重々しい気持ちを察したのか、それとも何か感じる事があったのか、那智がニコニコッと笑顔を零したまま右の手を重ねてきた。
那智に目を向けて綻ぶ。
重ねてくる左手をしっかりと結んでやった。
解けないよう、しっかりと。
嗚呼、この瞬間が今まさに幸せだって思える。
誰かを愛してるって思えるんだ。
誰かに愛されて、俺も誰かを愛してる。
間違いな愛し方だとしても、俺は幸せだ。
本人がそう思うならきっと、それは確かに、幸せと呼べるに違いないんだ。



