福島に睨みを飛ばし、家にはあげねぇって文句を言う、その前に福島は那智に声を掛けた。
「那智くん。お姉さんね、焼きドーナツを買って来たんだ。
味は6種類買って来てるんだよ。ノーマルに苺にチョコ、きなこ、カボチャ、抹茶。どれがいい?」
「…ドーナツ…?」
「ドーナツ好き?」
うん、と頷く那智を一瞥すれば、物欲しそうに焼きドーナツの入った袋を見ている。
「食べたいよね?」
福島の誘惑に、キュルル…那智の腹の虫が鳴る。
多分、昼休みは同級生が来たどうのこうのでまともに飯を食ってないんだろう。
「ぁぅ」那智は恥ずかしそうに俺の背中の上で身を小さくした。
「ほっらぁ、下川。那智くん、お腹減ってるみたいだけど? 早く何か食べさせなくていいの?
ねー、お腹減ったよね、那智くん」
………。
こいつ、那智を味方に付けやがっ…、マジでぶっ飛ばしてぇ。
こめかみに青筋を立てる俺に対し、「ま、公園でいっか」そこに見えてきたし、と右前方を指差してくる。
しょーがねえ。
那智が腹減ってるみたいだから、今だけ福島に従ってやる。
あんま、あそこの公園は行きたくないんだけどな。
チンピラと喧嘩した場所でもあるし、下手すりゃ襲われかねない。
まあ、今は昼下がり、公園には人もいるようだから大丈夫か。
俺は公園に入る前に、公園前にある自販機で三人分のジュースを買う。
これで貸し借りはなしだろ(福島からは「明日雨でも降るんじゃない?」って驚かれた)。
んでもって公園に入り、三人仲良く備え付けられているベンチに腰掛ける。
けど座る時、
「あんたの隣は嫌だからね」
なんて福島に言われて、
「てめぇの隣だけはごめんだ」
俺も素っ気無く反論。
そうすると必然的に那智を真ん中に座らせることになる。
しまった、他人と至近距離に那智を置いちまった!
後悔しても時既に遅く、那智を真ん中に俺達は両サイドに腰掛ける羽目になった。
ほんっと福島のペースに呑まれてる。
あーあ、情けねぇ。



