「那智くん、お兄さんのお話しかしないんですよ。
本当に大好きなんですね、お兄さんのこと。
―…お兄さんがずっとご面倒を?」
「ええ、今も事情により二人暮らしです」
「そうですか」
意味深に頷く三好先生は那智に、
「また明日顔を出してくれたら嬉しい」
と声を掛けて、俺等を正門まで見送ってくれた。
始終俺にくっ付いている那智は学校に出るまで、顔を上げようとはしなかった。
そんな那智の手を、俺は始終握ってやった。
学校を出ると那智は幾分表情を和らげた。
それでも今日一日の動揺が疲労として現れているらしく、表情は重々しい。
それに足取りも重たそうだ。体を引き摺るように歩いている。
…ちげぇ、体を引き摺ってるのは俺のせいだろ。
容赦なくぶん殴っちまったから、那智、体が上手く動かないんだろ。
結構なまでに痣ができてたからな。
一日で完治できるわけも痛みが緩和するわけでもねぇ。
俺は那智の手を放して、前に回るとしゃがんだ。
「ぅ?」首を傾げる那智に、「おんぶ」ほら早く乗れよ、俺は急かした。
大丈夫だと言わんばかりの顔をしていた那智だけど、甘えたかったのも多少あるみたいだ。
間を置いて俺の背中に乗ってきた。
しっかりと那智の体を背負って、俺は立ち上がる。
まだまだ那智の体重を背負える重さだけど、那智が成長していったらもっと重くなるんだろうな。
「にしても、福島。てめぇはいっつまでついて来るつもりだ?」
俺は隣に視線を投げ掛けながら歩みを再開する。
同じように歩みを再開した福島は、
「だってこれ」
買った焼きドーナツを見せ付けてくる。
「三人分買ったし、別に公園で食べてもいいけど?」
なーんて恩着せがましく口角をつり上げてくる福島は、どうやら俺等の家までついて来るようだ。冗談じゃねえぞ。



