嫌な思い出を蘇らせながら、靴箱がある昇降口に向かう。

昇降口前につくねんと佇む男子生徒がひとり。

いや、ふたり?
その隣には教諭らしき人物。

俺はそいつに見覚えがあった。
養護教諭(学校保健師)の三好先生だった。一緒に俺を待ってくれている。

三好先生と、どぎまぎと会話をしている那智は俺の姿を見つけるや否や安堵したように綻んで猪突に突っ込んでくる。

腰に抱きついてくる那智の体を受け止めれば、「兄さま」弱々しく俺の名を呼んで体に顔を埋めてくる。

微かに体が震えていた。
頭に手を置いて、「どうした?」声を掛けても嫌々首を振るだけ。

何か嫌な事でもあったのか?


「あ、那智くんのお兄さん。こんにちは。そちらの方は彼女ですか?」


わりと若い女教諭の三好先生は、俺と福島を交互に見やって一笑。


「「違います」」


俺等は即答、口を揃えて否定した。

死んだってごめんだ、こんな奴と恋人なんざ。
だったら俺は那智と恋人になるぞ。


「あの…、那智に何かあったんですか?」


俺は那智の不可解な様子に疑問を投げ掛ける。
 
「ああ」苦笑いする三好先生は、少し動揺しているだけなのだと答えてくれた。
 

曰く、今日の昼休み、保健室で担任と給食(那智には弁当を持たせてるけど)を食べていた那智の元にクラスメートが二人やって来たそうだ。


それに驚いて那智は酷く動揺、上手く喋れずに狼狽してしまったらしい。


そんな自分に自己嫌悪しているのだと三好先生は言った。


ついには兄に会いたいと愚図り出す始末。


「最初は大道先生だけが保健室に来ていたんです。
那智くんとお話しするために、保健室に来て、一緒にご飯食べていたんですけど。

その大道先生を尋ねて、クラスメートがやって来て…、那智くんに興味があったんでしょうね。
声を掛けてきたんです。

だけど那智くん、酷く驚いてしまって…、その、体の痣を言われるんじゃないかって怯えてしまって」


「そうですか…」

「実は那智くん、その前から井坂先生と少し話して…、動揺はしてたんですよ」


井坂先生は那智を保健室登校に追いやった元凶人物、体育教師だ。