×


那智の通う中学校は元々俺が通っていた中学校、つまり母校だ。

懐かしいなんざ一欠けらも思わねぇ。


寧ろ中学校に良い思い出は一つも無い。


俺の中学時代はまさに、母親の虐待真っ盛りだったからな。

思い出すだけで反吐が出る。


最近じゃ世の中が物騒になってるもんだから、正門や裏門が閉まっていることが多い。

しかもご丁寧な立て札『学校関係者以外立ち入り禁止』なんざ掲げてやがる。


ま、一応関係者だから堂々と入らせてもらうけどな。


俺は正門横の柵ドアを開けて中に入る。
後から福島も入って来るもんだから…、ほんとこいつ、何処まで付いてくるつもりだ。

文句も億劫だから、好きにさせてるけど。


砂利が敷き詰められている裏道を通って行くと、音楽室辺りから歌が聞こえてきた。

 
歌を聞くと思い出すな、合唱コンクールって忌々しい行事を。

合唱コンクールってのは歌の演奏で優劣を競うもの行事なんだが、あれは俺にとって苦痛のほかなにものでもなかった。

他人と一緒に教室に閉じ込められて好きでもない歌を延々歌わされた記憶がある。

俺はそういうのが大嫌いだったから、いつも抜けてた。

図書室で本読んだり、一人でさっさと帰ってたり、参加しようともしなかった。


おかげでクラスからは反感を買った。

三年間、毎年のように反感を買った。


けど、反感を買うのは最初だけ。
途中から誰も何も言わなくなる。


っていうのも、俺は母親から門限を決められてた。


一応俺も虐待されてた時期だったから、あんま遅れて帰ると母親からどんな目に遭わされたか。


クラスの反感を買って、練習に出るよう言われて、放課後仕方なしに出たら…、帰りが遅くなって母親にぶっ叩かれて。


顔に痣作っちまったこと、何度あったか。


俺が虐待されてるの、学校では黙認されてたから、痣作った日には「練習は好きなときに参加して」と気遣われるようになった。

同情されてるようで気分を害したけど、喜んで不参加させてもらった。