「―――…ありがとうね、待ってもらって」



花屋近くのガードレールに腰掛て、缶珈琲を飲んでいた俺の元に例の女がやって来た。

なあにが、待ってもらってありがとうね、だ。
この盗っ人。


心中で悪態を付く。


ニヤニヤと嫌味ったらしい笑みを浮かべる福島に眉をつり上げる俺は、フンと鼻を鳴らし無言で手を出す。

携帯を返せ、という意味だ。


「取ったわけじゃないから」


鞄のポケットから落ちそうになったのを手にして、そのまま返すのを忘れてただけ。

弁解にもならない弁解を述べて福島は俺の携帯を手に平に置く。奪うように携帯を握って、俺は中身を開いた。


新着メールが一件…、ゲッ、那智からだ。


「5分も前にメールが来てるじゃねえか。ナナシ女、てめぇのせいで那智を5分も待たせたぞ」

「秒数にするとたった300秒よ」

「300秒も、だ」

「このド変態ブラコン」

「るせぇ」


3分だって待たせられねぇのにっ、俺は急いでメールの中身を読む。


そろそろ帰りたい、そんなメール内容に俺はすぐさま返信。

『迎えに行くから昇降口で待ってろ』と、いう内容を送信。


ガードレールから降りて、すぐさま那智の通っている中学へ向かう。

で、忘れてたんだが、俺の隣を当然の如く歩く女が一匹。なんでついて来るんだよ。


「おい…、俺は今から那智を迎えに行くんだが」

「分かってるわよ。なんとなく付いて来てるだけ」


「失せろ」

「嫌よ」