『まあ、あんたはあたしを待つでしょうけど?』
………。
「まさか、あの女」
俺は握り拳を作って踵返した。
向かうはそう、さっきの花屋。
花屋に戻ると福島の姿はなく、代わりにさっきの女店主がカウンターに立っていた。
「あら?」微笑ましそうに俺を見てくる女店主に歩み寄り(断じて恋人じゃねえぞ)、「福島います?」俺はアイツの居所を尋ねた。
すると店内の奥のテーブルで新たな客の接待をしていると言う。
となると、俺は必然的に福島を待たなきゃなんねぇわけで。
ありえねぇって…、マジで。
俺は苦々しく溜息をついて、チラッと店内の奥に視線を投げる。
「あ」俺は思わず福島への苛立ちが掻き消えた。
客と笑顔で接待している福島がやけに眩しく見えた。
なんだこれ、どうして…、俺、そんなことを…。
「あいつ、普通に笑ってりゃ可愛いじゃん」
ポツリと口に出して俺は俺自身に驚いた。
何を言ってンだ、俺。
気でもおかしくなったか?
あいつ、那智を初対面で傷付けた奴だぞ。
しかもあいつが俺達を狙った犯人って可能性もあるんだぞ。
何、可愛いなんぞ口走ってるんだ。
(けど…、あれだな。穢れのねぇ笑顔っつーの?)
福島の客に向ける笑顔は無垢だった。
世の中の汚れを知らない…、寧ろ心洗われるような笑顔だった。
どっかその笑顔は那智に似ている。
あいつも世の中の汚れを知っていて、敢えてそこを無垢な笑顔で流しちまう。
あ、やっぱ俺、那智しか見えてねぇ。
福島の笑顔を那智と重ねてるから。
俺は恍惚に福島の働く姿を見つめていた。



