「痴話喧嘩? よくあるわよね。恋人さん同士じゃ」
「………」
「………」
こ い び と だと?
このいけ好かねぇ女と俺がっ、一組のカップルにされた、だと?
ざけんじゃねえぞ!
俺には那智がいるっつーんだ!
いや、あいつとは恋人じゃねえけど、まあ、恋人にされてもいいけどっ、けど、こいつだけは、こいつだけは!
「て、てめぇのせいで誤解されたろうが! さっさと手を放せ!」
「あ、あんたがさっさと承諾しないからよ!
いいわね? あんた、15分経つまで店近くで待ってなさいよ!
―…まあ、あんたはあたしを待つでしょうけど?」
含みある台詞を放って袋から手を放す福島に、「ンなわけあるか」舌を鳴らしてさっさと店を出た。
「アリガトウゴザイマシター」
わざとらしく挨拶してくる福島に苛立ちを覚えながら、俺はさっさと花屋から離れて行く。
なんだってんだ、どうして俺が福島を待たなきゃいけねぇ。
完全にペースを掻き乱されちまったな。
優一と同じ類だ、あいつは。
あ、そうだ。
そろそろ那智からメールがあってもおかしくねぇよな。
あいつを迎えに行かなきゃなんねぇ…、ん? 携帯…、携帯…。
「いつも鞄の外ポケットに入れてンだけどな。どこやった?」
頭部を掻いて、俺は道の端に寄る。
鞄の中をあさくってみるけど、やっぱねぇ…バイト先に忘れてきたってことはねぇしな。
花屋に入る直前まで使ってたし。
じゃあ何処に。



