ま、今は花屋だ。
自然の香りが漂う花屋へと、俺は足を運んだ。
那智に沢山の観葉植物を買ってやらないと。
店内に入ると色とりどりの草花たちが俺を歓迎してくれた。
花々の良い匂いに思わず周囲を見渡す。どれにすりゃいいかな。
取り敢えず、那智、観葉植物がいいって言ってたけど…、いっそ花を買ってやってもいいな。
室内で育てられそうな花。
あ、けど…どれが観葉植物なんだろ。
俺、植物は無知だからな。
困り果てていると、店内の奥のテーブルで作業していた女店員が俺に気付いて元気よく挨拶してくる。
「いらっしゃいませ。お客様、今日はどのようなー…はぁ?!」
「は? …はぁ?! ナナシ女っ?!」
お互いに顔を引き攣らせる。
おいおいおい、またどういう運命の悪戯でナナシ女と…じゃねえ、福島と会っちまうんだよ。
俺、ここ三日、大学に行ってないし。
大学に行かない限り、会う確率なんて一割にも満たないだろ。
なんでよりにもよって福島と、しかも、花屋で会っちまうんだよ。
前掛けをしている福島は、どうやら花屋でバイトをしているらしい。
俺の姿をまじまじ見た後、ポツリ。
「……。この世でいっちゃん花が似合わない男ね」
「……。この世で一番花と縁の無さそうな女だな」
片眉をつり上げる俺に対し、福島は「うざっ!」地団太を踏んだ。
ったく、マジでありえねぇ。
ナナシ女が花屋でバイトしてるなんて。
いっそのこと場所を変えちまうか。
いや…、此処、評判だしな。
那智のためだ。
我慢しよう。