でも、将来を考えると、あんま貯蓄は使いたくないんだよな。
俺の承諾に、親父は心底安堵した表情を作る。
些細なお礼なのか、親父は送ると言って俺にシートベルトを締めるよう指示。
こうして帰宅する“足”を確保した俺は、ファーストフードを那智にお土産として持って帰りたいんだけど、親父に告げた。
すると親父はドライブスルーに寄ってくれる。
これまた些細なお礼なのか、俺等の食べる分の金を出してくれた。
なんか複雑な気分だった。
会話もなく、俺と親父を乗せた車は夜の道路を駆け抜けて行く。
全開の窓から吹いてくる風は生暖かく、どこか排気ガス臭い。
車がひしめき合いながら、せっまい道路を走っているせいだろう。風が汚れている。そんな気がした。
と、車内にぬいぐるみが飾られているのに気付く。
ブサイクな猫のぬいぐるみだ。俺はそれを手に取って眺める。
「あんたの子供の趣味?」
どう見ても親父の趣味じゃない。
奥さん、もしくは子供の趣味だって考えるのが筋。
俺は敢えて子供の趣味なのかと聞く。
何となく話し掛ければ、「ああ」ぎこちなく親父が返答。
ふーん、俺は興味なくそれを元の場所に戻して夜景に目を戻す。
「子供は可愛いか?」
俺の質問に親父は無言になる。
遠慮してるのか、それとも戸惑ってるのか。
俺は構わず夜景を見つめながら言う。
「あんたの子供は幸せなんだろうな。
俺等と違って愛されてる。
子供と俺等、逆だったら俺等はあんたに愛されたのかなぁ」
これは独白に近かった。
別に返答なんて期待してなかった。
ただ純粋に疑問に思ったんだ。
同じ親父の子供のそいつと、俺等、立場が違ったら愛されてたのかって。
想像も付かない。
俺等が親に愛される光景なんて…、微塵も。
「治樹…、すまない」
親父の上擦った謝罪は聞こえない振り。
汚れた風の中に掻き消すことにした。