くたびれたスーツを身に纏っている親父は何時間も俺を待っていたのか、手にはトレイ、食べ終わった包装紙等が散らかっている。

目を細めて警戒心を抱く俺は、開いていた携帯を閉じて親父を見据える。


「用か?」


挨拶も前置きもなく、俺は単刀直入に聞く。
一分一秒足りとも、こいつと同じ空気を吸いたくなかった。

殺伐とした俺の雰囲気にやや怯みを見せながらも、親父はトレイを片付けて俺に言う。

話したい事がある、と。




話…ねぇ。




俺とてめぇの間に何か共通する話題性でもあるのか?

あったらそれはしごくクダラナイものに違いない。

わざと間を置いて俺は返答した。


「別に構わねぇけど」

「そうか、時間を取らせてすまない」


建前だけの謝罪なんていらねぇけどな。
 
俺は鼻を鳴らして親父と店外に出る。

物寂しいネオンが俺の視界一杯に飛び込んできた。

人工的に作られた光のせいで、本来地上を照らす筈の星々や月光が此処、地上にまで届いていない。

人工的な光が俺等人間の心を蝕んでいるようにさえ思える。


「那智も一緒にいいか?」


不意に親父から質問を投げ掛けられる。
俺は眉をつり上げた。目を細めて親父を見据えるけど、向こうも気丈に視線を返してきた。


「二人に会うためにお前等の家に言ったんだが、誰も出なくてな。
前々から知っていたお前のバイト先に赴いたんだ。
治樹、お前にもそうだが那智にも少し話がある」


「那智をまた傷付けるつもりかよ。あんたは」

「違う。ただ少し「接触することは俺が赦さねぇ」


冷然と親父を睨む。

自分が俺等の父親だとでも思ってるのか、こいつ。

だったらお門違いもイイトコロだ。

俺達の虐待さえ平然と背を向けて、別の家族を愛していたくせに。

たまに帰って来ると思ったらお袋(というものヤだけど)と情事。俺等には淡白な一面しか見せなかった。


優しくされたことは?

そんな憶え、カケラもねぇよ。
 

那智と親父の接触は俺が赦さない。あいつが深く傷付く。