此処で待っててくれよな、って。
便座の蓋を下ろして那智をそこに座らせる。
タンクに凭れ掛からせて、羽織っていたジャケットを那智に掛けた。
軽く髪を撫ぜた後、俺は個室を出てると忍び足で移動。
掃除用具からデッキブラシを手に取って、男子便所を覗き込む。
和気藹々と会話している奴等はこっちにまだ背を向けて、個数の少ない個室に人がいないかどうか確かめている。
俺は柄を握り締めると一呼吸。
次の瞬間、音なく駆けて一人の背中に蹴りを入れた。
突然の奇襲に面食らうチンピラだけど、俺は喧嘩慣れしてる。
相手の動揺に同情や情けを掛ける間もなく、茶髪のチンピラを蹴り倒した後、デッキブラシの柄頭で金髪のチンピラの鳩尾を突いた。
痛みに呻く相手から目を逸らして、蹴り飛ばした相手が起き上がる前に横腹を蹴り上げる。
鳩尾の痛みで呻きながらも、金髪チンピラが俺にフックをかましてくる。
避けることもなく俺は横っ面に拳をもらったけど、痛みも喧嘩と同じ、慣れている。
動じず、俺は相手の顎をデッキブラシの柄頭で突いて、それを床に捨てると素早くフックかましてくれた腕を取り、あらん方向に捻り上げた。
それだけで済むなら可愛いものだろう。
けど俺は、他人には容赦しねぇタチ。
ニンマリと笑って、俺は相手に言ってやった。
「右腕。貰うぜ」
相手は俺の言葉の意味を察して青褪めた様子だけど、もう遅い。
捻り上げている腕を、俺は更に捻ってそのまま―…ゴキッ!
鈍い音から数秒も経たない内に、便所中に響き渡る悲鳴が上がった。
それはまるで断末魔のよう。



