「下川くんの執着心は、異常の域を超えているかもしれない。
完全に弟くんの世界を支配しているというか、コントロールしているというか…、外界に目を向けないようにしているというか。
那智くんの世界を作り上げている、それが最も適した表現かも」
また言った。
どうして兄さまが異常なんだろう。
おれには分からないや。
皆の言う、兄さまの異常が、よく分からない。
皆は兄さまが異常に見えるのかな。
「ブラコンブラコン言ってたけど、あれじゃ弟の独裁者だわ。
那智くん、お兄さんに逆らえない様子だけど、少しは“嫌”って言ってもいいんだよ?」
真正面に座っている福島さんに助言される。
少しは兄さまに逆らっても、“嫌”と言ってもいいのだと。
何だか皆、勘違いしてる。
おれは兄さまに服従しているわけじゃない。
好きで兄さまの傍にいるわけだし、好きで兄さまの言うことを聞いているわけだし、何より兄さまの喜ぶ顔が見たい。
兄さまが大好きだから、兄さまの望むことをしているだけなんだ。
他人と上手く喋れないおれでも、それだけはちゃんと伝えたくて、腹筋に力を入れて声を振り絞る。
「おれ…、兄さま…好きですから…、兄さまの…望むことしたい、んです」
「いやでもね、那智くん。
お兄さんはお兄さん、那智くんは那智くんでしょ。
身内であれ二人は別個の生き物。
それぞれの道を歩くんだから…、お兄さんに束縛されなくてもいいと思うな。
不幸せ、じゃない? 束縛されて」
福島さんは言葉を重ねて、おれに助言してくる。
瞬きした後、おれは「不幸せ?」聞き返した。
「そう」
相槌を打つ福島さんに、おれは微笑を浮かべてとんでもないと首を横に振った。
本当に福島さんはとんでもない!
おれは福島さんに聞こえるように、声音を大きくして告げる。
なるべくスムーズに話せるよう最大限努力して。



