「そういえば、下川、あんた…結局、被害届け出さなかったんでしょ?」
福島さんが話題を吹っ掛けてきた。
「ああ。警察なんざ、あてにもなんねぇしな」
おれの顔色をチラチラッと窺いながら会話を進める兄さまは、この話を出しても大丈夫なのかって窺っているみたいだ。
今は皆がいるから大丈夫、取り乱したりはしない。
それを分かった兄さまは話を続ける。
「けど、このままにはしねぇ」
兄さまは意味深に台詞を吐いて、おれと手を繋いでいない方の肘をテーブルに付く。
ニヒルチックに口角をつり上げた。
「俺から弟を奪う。
それがどういう意味を指すのか、犯人にしっかり教えてやる」
「あんたに警察以上のことができるわけ?」
福島さんの問い掛けに、「さあな」兄さまは薄ら笑いを浮かべる。
福島さんは知らないだろう。
兄さまの行動力の凄さを。
行動力の凄さに両親も怖じたほどなんだから。
「兄さま、無理はいけませんよ…。怪我したら、おれ、悲しいです」
兄さまの身を案じれば、「大丈夫だ」兄さまは頬を崩した。
「それよりも」
言葉を続ける兄さまは、おれの頭に手を置いてしっかり視線を合わせてくる。
兄さまは大事な事を言う時、必ず視線を合わせてくる。
「那智、てめぇは他人に奪われるようなことをしてくれるな。
分かってると思うが、てめぇの全部は兄さまのものだ。
誰に奪われることも兄さまは赦さねぇ」
こんなところで兄さまがこんな発言をするなんて。
いつもは、二人きりの時に―――…。
でも兄さまの言の葉はおれの胸の内に浸透する。
おれにとって兄さまの言葉は絶対。
だから知らず知らず、無意識の内に返事するんだ。
絶対的存在の兄さまに、笑みを零して、
「兄さま、大好きです」
って。



