(旧)ふたりぼっち兄弟【BL寄り】

全員がメニューを決めて、店員さんに注文する。
その間、暇になるから談笑…っていうのが、フツーなんだろうけど、このテーブルは談笑がなかなか飛び交わない。

特に兄さまと福島さんが…。

そういえばおれ、福島さんにちゃんとお礼、言ってない。
怪我の治療をするために、お部屋貸してくれたって兄さまが言ってたし。

ちゃんとお礼は言わないと。


「ぁ…ぁ…の…あの…!」


思い切っておれは福島さんに声を掛けた。
勇気の全部を使い果たすくらい、おれは勇気を出したと思う。

不機嫌な顔をしていた福島さんだけど、おれの方を見ると幾分表情が和らぐ。


「どうしたの?」


声を掛けられて、おれは硬直した。喉が引き攣る。

こういう時、兄さまが通訳してくれたりするんだけど。
でも駄目だ、駄目、ここで兄さまに頼ったら…、お礼くらいは自分で言わないと。

おれはなるべく大きな声ではっきりと、言葉を紡いだ。


「こ、の前は…ありがとう…ございましたっ」


ペコって頭を下げるおれに、「気にしないで」福島さんは柔らかな声で言ってくる。


「いい子ね。どっかの兄貴と違って」

「っるせぇ。那智は優しいんだよ」

「でしょーね。雰囲気で分かるわよ」


おれに目尻を下げてくる福島さんに兄さまは舌打ちを鳴らした。
 
次の瞬間、兄さまはおれの手を掴んでしっかりと握ってくる。
みんなの目には映らなかっただろうけど、テーブル下で兄さまはおれの手を握ってきた。


だからおれはその手を握り返す。

何処にも行かないよ、その意味を籠めて。