セックスを思い浮かべると、どーしてもお母さんと恋人さんの濡れ場シーンを思い出す。
喘ぎが煩くて眠れなかったという悪い思い出が…。
だからなのか何なのか、セックスって知識も知ってるし、光景も目の当たりにしてはいるけど、あんまり興味が湧かない。
兄さまがシたいって言うなら頑張るけど…、想像も付かないや。
兄さまとおれの濡れ場なんて。
あ、キスとかできそう。
キスって唇と唇が触れるヤツだよね? あれならできそうかも。
手を繋ぐのとかと一緒で、相手に触れるだけだから。
兄さまにその旨を伝えれば、
「確かにできそうだな」
今やってみるかって聞かれた。
いいですよ、言う前に浩司さんから全力で止められた。
「TPOを考えろ、下川。
こんなところでしたら大注目だ。目の当たりにするこっちの身にもなれ!」
「ンなこと知るかって。そっちが勝手に言ってきたんだろうが」
「お前…秀才のクセに、時々ぶっ飛んでるぞ」
「しーるーか。俺は俺のやりてぇようにやる。行くぞ那智、無駄な時間を過ごした」
ぶすくれている兄さまはおれの手を掴むと、二人を置いてファミレスに向かう。
フンと鼻を鳴らす兄さまは二人に対して素っ気無い態度を取っていた。
あんまり見られない、兄さまの一面だ。
「ちょっと待ってって!」
優一さんが浩司さんと一緒に後を追い駆けてくる。
ついて来るなって兄さまは悪態を付くけど、自分達もファミレスに行く予定だって言葉を返された。
舌を鳴らす兄さまは別の場所に座れよ、って二人を突き放す。
「みんなで食った方が美味いじゃんか!
なーあー、ツンデレ治樹! 俺等にもデッレーな面を見せてくれよ!」
積極的に話し掛けてくる優一さんは一緒に食べようって誘ってきた。
ふざけるな、兄さまは悪口(あっこう)をついてファミレスの扉を開けた。
多分、別々に食べることになるんだろうな。



