兄さまは考える素振りを見せた刹那、あどけない笑顔を向けてきた。
「しょうがない奴だな。もうねぇからな」
わっしゃわしゃと頭を撫でられて、おれも心の底から笑みが零れる。
おれはこの時、兄さまがアクのある子供っぽい笑顔を零していたことに気付かなかった。
兄さまの笑顔が見られたことが純粋に嬉しかったから、積極的に兄さまに抱きついていたんだ。
ゴホン―。
咳払いが聞こえたのは直後の話。
振り返れば、決まり悪そうに咳払いする優一さんと、唖然としている浩司さん。
そういえばお二人…、そこにいたんだっけ? 忘れてた。
「あのさぁ。治樹、ちょい会話を聞いてて思ったんだけど…。
そっこまで小っ恥ずかしい会話しといて…、独占染みた会話しといて…、デキてないの? 弟くんと」
優一さんは当たり障りのないように話題を吹っ掛けてきた。
デキてるっていうのは兄さまと恋人って意味、だよね?
デキてはないんだけど…なぁ。
兄さまは優一さんに話し掛けられて不機嫌に顔を顰めた。
「べつにデキてるって思ってもらっても構わねぇよ。俺等は俺等で兄弟のやり取りを交わしてるだけだ。
ったく、優一が適当なこと言いやがるから那智が勘違いしやがっただろ」
「寧ろ、デキてるって言ってくれた方が納得できる会話だったって!
なに? お前等デキてねぇの?! ぜぇえったい嘘だろ!」
なんか優一さんがギャンギャン吠えてる。
ついでに髪を振り乱して混乱してる…みたい。
「るせぇな。俺等がどういう関係だろうと関係ねぇだろうが。
じゃあ、那智、兄さまと恋人になるか?」
前触れも無い質問におれは目をパチクリ。
別になってもいいけど…、
「恋人さんになったら何すればいいんですか?」
「あー…セックス? とか?」
「おれ、兄さまにヨクジョーしたことありませんけど…」



