暮夜の刻になった空は吸い込まれそうなほどの闇が広がっている。
おれは空を仰ぎながら、兄さまと歩道を歩いていた。
手はしっかりと兄さまと結んでいた。
暗い夜道を歩いているから、そこまで目立たない。
近所にも拘らずおれは兄さまと堂々手を繋いでいた。
街中でもおれと兄さまは手を繋いで歩いていた。
兄さまがおれを連れて来てくれたのは一軒のファミレス。
此処なら人目も多いし、騒動も起きにくい、兄さまはそう言っておれに一笑した。
このまま何事もなくファミレスに入れる。
そう思ったんだけど、
「ツンデレ治樹じゃーん!」
明るい声がおれ達の方に飛んで来た。
びっくりするおれは身を竦めて、兄さまは物の見事に顔を引き攣らせた。
「おいマジかよ」
なんでお前等が此処にいるんだよ。
愚痴を零す兄さまは前を睨んでいた。おれもそっと前に視線を投げる。
そこには兄さまのお友達、えーっと…、優一さんと浩司さんが立っていた。
近所に住んでるのかな?
疑問を抱くおれを余所に、
「ボーリングの帰りに飯食おうと思ってさ。ファミレス来たんだけど、お前等も?」
気さくに話し掛けてくる優一さん。
どうやら近くのボーリング場に行った帰りらしい。
そういえば近所におっきなボーリング場があったっけ。行ったことないけど。
悶々思考を巡らせていたら、目の前に優一さんの顔が現れた。
「ひゃっ!」
驚いておれは兄さまの後ろに隠れる。
「優一!」
怒声を張る兄さまに、
「悪い悪い」
挨拶しようとしただけだって。
優一さんは片手を出して兄さまに謝っていた。
うん、少し罪悪感……、悪いことしちゃったかも。



