今もその刑を受けないよう、問題集に勤しんでいる。
「えーっと、助動詞の種類は」
シンと静まり返る居間で、兄さまが指定したページを解いてるんだけど、なかなか進まない。
分からないっていうのもあるんだけど、気が乗らないんだ。
ふとした瞬間に襲われたことを思い出して、おれは恐怖に怯える。
いきなり見知らぬ人に襲われたら、誰だって畏怖の念を抱く。
おれだって例外じゃない。
他人が極端に苦手なのに、あんな風に襲われたら…、こんなにも恐怖心を抱くのは久々だ。
ガタッ―。
「わっ!」
台所から物音が聞こえて、ついついおれは恐怖のあまりシャーペンを投げて居間を飛び出した。
寝室に入って、敷きっ放しの布団に潜り込む。
兄さまがいない今、おれはこうして身を守る他に方法は無い。
部屋には誰もいない、その孤独と恐怖が交差する。
独りがこんなにも恐いなんて。
留守番が苦痛で仕方が無い。
兄さまには口が裂けても言えないけど、留守番がこんなにも恐いなんて。
嗚呼、兄さまは幼い頃…、こんな恐怖と闘っていたんだろうか。
そう思うと兄さまは改めて強いと思う。
だって兄さまは、こんな孤独や恐怖をひとりで乗り越えていたんだから。
気持ちが落ち着くまで布団の中で息を潜めて、完全に平常心を取り戻したら居間に戻る。
そんな時間を留守番中は過ごしていた。



