「じゃあね、先輩」
大げさなほど手を振る沢村に、本宮は笑顔だけ返して背中を向ける。
その姿が角を曲がって見えなくなったところで、沢村は上げていた手を下ろした。
そして、さっきまで本宮がいた場所を見つめてから、「はー……」とため息をつく。
「いい加減迷惑かな……」
そう独り言をもらした沢村が、ひとりでブツブツ続ける。
「先輩、優しいからハッキリ迷惑だって言えないだけかもしれないし……。
だったらあたしから引くべきだよね。
……結果は、分かってるんだし。
でもなー……」
俺のいる場所から見えるのは、後ろ姿だけ。
なのに、後ろ姿を見ただけでもシュンとして見える沢村。
面倒だと思って顔をしかめながらも、ここからどく様子のない沢村に、仕方なく近づく。



