(絶対あり得ない)


午後の授業が始まっても、私の頭の中は、


麻子の言葉が螺旋を描くようにぐるぐると回っていた。


(・・・古田君と、隼人が私のことを好き・・・)


ちらり、と教壇の近くの列に居る、隼人の後姿を見る。


いつもと変わらない広い背中。


(・・・そういえば)


ふと、とりとめの無い事を思い浮かべた。


いつから、アイツに背を抜かれたのだろう。


小学校の高学年までは、たいして変わらなかったのに。


むしろ私のほうが背が高かった。


それなのに、中学校に入って、サッカーをやるようになってから、


どんどん大きくなっていった。


身長が伸びていくアイツを見ていると、


どんどん私の知らない人になっていくような感覚を覚えた。


だから何だ、とは思うけど。


(・・・隼人がねぇ)


でも。


普通、好きな女の子に対しては優しくするものじゃないのかな。


アイツは私のことをいつも『バカ』呼ばわりするし、


私には優しくほほ笑むどころか、意地悪にニヤリと笑うぐらいしか、


笑顔らしい笑顔をみたことがない。


それに、アイツが私を好きになる訳がない。


『あんな事』があったのに、私を好きになる訳がないんだ。


一方、古田君は、私に優しい。


私に向けてくれる笑顔も、キラキラ輝いているように見える。


でも、まぁ、古田君は天然の優しさのような気がするし、


元々ハーフで綺麗な顔立ちをしているから、


笑顔もなおさら素敵に見えるだけ。


私に対して特別、て感じとは思えないけどなぁ。


(麻子の思い過ごしじゃないの?)


今度ばかりは、麻子の読みは間違えている。


自称恋愛マスターの麻子も、今回は間違えたのだろう。