「佐恵ちゃん」

 えんじ色のセーターを着た圭太が走ってきた。ああ、そんなに急がなくても。

「早かったのね」

「待たせてしまうと思って。終了してすぐ教室を出たよ」

 今日はなにをした、授業がどうだった、失敗をした同級生の話などを圭太は話してくれる。
 桜の木の下で、2人で並んで座って話をする。それだけ、ただそれだけ。わたしには至福の時だ。

「あの時」

 夕陽がきれいにあたりを包んできた。ぽつりと言った圭太も照らす。

「白い日傘が転がってきて、それを拾わなかったら佐恵のことも気づかないで、通り過ぎたんだろうな」