両手に朝より多くの本を抱えながら、藤木が研究室に戻ったのはすでに空には白い月が浮かんでいた。


「戻りました」


「・・・えぇ・・・え?

・・・はぁ、しかし・・・。

うーん、そうですねぇ・・・それでは一応聞いてはみますが、あまり・・・。

はい、はい・・・分かりました。それでは」


牧の研究室に入ると、牧は電話で誰かと話している最中だった。


「おつかれさん」


受話器を置いた後、牧は笑って藤木を労った。



「議論が長引いて、つい遅くなってしまいました」



そう言って、彼は朝借りた辞書を、彼の机の上に置いた。


「ありがとうございます、先生」


「あぁ、良いよ。別に・・・」


そう牧は呟くと、彼はじっと藤木の顔を覗き込んだ。


「・・・?何か僕の顔に付いてます?」


「いや、そうじゃないのだが・・・。藤木君、君は歳、いくつだ」


「え・・・25歳ですが・・・」


奇妙なことを聞く、藤木はそう思った。


「25歳か・・・。まぁ、妥当であろう」


彼は怪訝な顔で牧を見た。


「どうかされたんですか?」


牧がにやっと笑った。


それはまるで、悪巧みをする子どものようなそれであった。


「藤木君、君、見合いをするつもりはないか?」