雨音色

彼は静かに頭を下げた。


その口元に、そっと微笑を浮かべて。


そして、無言のまま、自らの歩んできた道を進み始めた。


背後からの視線がちくりと痛みを疼かせる。


が、しばらくして、その足が止まった。


彼は振り向きもせず、こう尋ねた。


「・・・タマさん。1つだけお尋ねしたいことがあるのですが・・・」


雨音が、二人の会話を遮ろうとする。


「貴方様に話すことは何もございません」


即座の返答に、沈黙が続いた。


言葉は無い。


ただ雨の降り続ける音が、こだまする。


そしてしばらくして、彼は再度口を開いた。


「幸花さ・・・もとい、お嬢様は、今尚笑っておられますか?」


タマは何も答えない。


彼は彼女の方を向かず、そのまま話し続けた。


「お嬢様が元気でいらっしゃるか。

間違っても落ち込まれたりしていないか。

それだけが、僕の気掛かりです」


静かな、それでいてしっかりした声が、その場を駆ける。


その瞬間、彼は悟った。


あぁ、これだったのか、と。