雨音色

幸花は、父の言葉を何度も頭の中で繰り返した。


ようやく、父が意味する事が明らかになってきた。


同時に、彼女の手に冷たい汗が滲み出す。


「・・・お父様。おっしゃっている事が、私にはよく理解できません」


やっと出てきた言葉は、その程度でしかなかった。


気がつけば、手足が小刻みに震えていた。


「とにかく、また違う人と見合いをしなさい。そういうことだ」


父はそう吐き捨てると、突如立ち上がり、部屋を出て行こうとした。


「待ってください!お父様。

一体どういうことなのですか?

幸花には理解できません。

何故そのような事をおっしゃっているのですか?」


必死の思いで、彼女は叫んだ。


広い部屋に幸花の叫び声がこだまする。


父の足が止まった。


刻まれた眉間の皺が、一層深くなる。


「・・・彼は幸花に相応しいとは思えない」


「お父様!幸花は納得できません!お父様だって、食事の時・・・」


「口答えをするな!」


突然の大声に、彼女は押し黙った。


生まれて初めて、父の怒鳴り声を耳にした。


父は興奮する自分を落ち着かせるように大きく息を吸い込み、


そして、吐き出しながら言った。


「とにかく、もう彼とは会ってはならない。

彼のことは忘れなさい。

それだけだ。戻りなさい」


ばたん、と大きな音をたてて、扉が閉まる。


「・・・どうして・・・」


一言、それだけが彼女の口から零れた。


目の前の世界が、果ても無く回り続ける感覚に襲われる。


彼女はしばらくの間、その場に立ち尽くしていた。