雨音色

「良いお話でしたね」


劇場を出ると、既に外は暗くなっていた。


幸花が嬉しそうに、そう藤木に話し掛ける。


しかし、返事は返ってこない。


「壮介さん?」


彼女が顔を覗き込んだ。


「あ、え?・・・あ、わわ・・・」


彼が慌てたように数歩後ろに退く。


「壮介さん、今日はちょっと様子がおかしいですよ。熱でもおありですか?」


「え、い、いや、そんなことありません。僕はいたっていつも通りですよ」


藤木の顔が赤い。


幸花が心配そうに訪ねてきた。


「もしかして無理していらっしゃった?そうであればごめんなさい、私、無理矢理・・・」


彼女が悲しそうな顔をした。


「い、いえ!ち、違います!断じてそのような・・・」


彼が両手を急速に振る。


「が、学生時代以来だったんで、かなり楽しめました」


彼は微笑みながら、右手に持つ劇場パンフレットをペラペラ捲る。


内心では、やはり、かなりの動揺を覚えていたのだが。


その瞬間、彼は生まれて初めて牧を恨めしく感じざるを得なかった。


「米国のキネマは初めて見ましたが、中々面白かったです。あの二人、最後は結ばれて本当に良かったですわ」


まだ映画の余韻から抜け出せていないのだろう、幸花がうっとりしたように呟く。


作品の内容は、身分違いの恋に悩む男女の物語だった。


「弁士の語りも素晴らしかったですね。ちなみに、米国ではホリーウッドの映画が主流で、多種多様なものが作られているそうです」


平静を振舞うため、彼が彼女の半歩前を歩く。


彼はパンフレットを丸めて、それで顔を仰ぎ始めた。


「そろそろ戻りましょう。お迎えは学校の方に来られるのでしょう?」


一瞬、彼女が何かを言いかけたように見えたが、彼女はそのまま「はい」と答えた。


「時間があれば、エリーゼで軽く食事をいたしましょう」


二人は急ぎ足で駅へ向かった。