雨音色

「・・・本当にこれを見るのですか?」


「お嫌いですか?活動写真」


彼等は新宿にいた。


活動写真が見たい、という彼女の要望で、新宿の劇場に来たのだった。


「いえ、ただ、これは、その・・・」


ここは新宿でも有名な活動写真が見れる劇場だった。


弁士の語りも中々と評判で、休日になると、長蛇の列ができた。


今週の作品は、ホリーウッドのものだった。


「恋愛を題にした作品ですが、駄目ですか?」


彼は、映画館に掲げられたポスターを複雑な思いで眺める。


「いや、僕、こういうのは初めてで・・・」


頭をしきりに掻きむしった。


さっきから牧のあの笑顔と台詞が脳裏から離れない。


そのせいか、妙に彼女を意識してしまう。


それなのに、こんな映画を見たら、


ますます恥ずかしくなってくる事は請負だ。


先日の大審院の事例よりも取り扱いが困難な問題に、


彼は非常に頭を悩ませていた。


「それならば尚更良いではないですか」


彼女はそういうと、切符売り場の方に走って行った。


「あ、ちょ・・・。幸花さ〜ん」


情けない呼び声を上げながら、彼は彼女の後を急いで追いかけた。