ぼぉぉぉ、と汽笛が港中に鳴り響いた。
その瞬間に、甲板と地上に居る人たちが、互いに歓声を上げた。
船が、ゆっくりと、ゆっくりと、動きだす。
中には涙を浮かべる人がいた。
万歳三唱をする人もいた。
皆が、思い思いの気持ちを、その場で、直接投げかけていた。
少し離れた場所に、彼らはいた。
「・・・本当に、これで良かったのかな」
ぽつり、と牧が呟いた。
その横顔は、ひどく寂しそうだった。
手に握りしめられたままの懐中時計は、
出港時刻を5分、過ぎていた。
「・・・壮介の決めたことです。
壮介は、・・・留学を止めることだってできた。
きっと立ち止まっていたのは、気持ちに踏ん切りをつけるためでしょう」
牧の隣に立つ壮介の母は、同じく寂しそうな表情を浮かべながら、
そう言った。
「・・・でも」
牧から言わせれば、それはあまりに非現実的だった。
末娘とはいえ、山内家の娘と結婚。
可能性なんて、無いに等しい。
それならば、いくら相手が好きでも、自分であれば、留学をとる。
ただ、藤木の気持ちを想うと、牧の心も痛んだ。
山内家で見せた、あんなに必死になっている藤木の姿は、初めて見るものだった。
あんな情熱を、どこに秘めていたというのか。
力強く燃える炎を消してしまうのは、あまりに惜しい。
それがたとえ、恋愛であろうとも。
「・・・はぁ」
牧が、思い切り大きなため息をついた。



