雨音色

「・・・あと、5分」


牧の言葉は、重かった。


「それじゃ、本当にそろそろ行かないと」


船の乗り場は、乗務員たちが出港に向けて、最終準備を行っていた。


彼は大きなカバンを両手に持ち、


皆に再度頭を下げた。


皆、何も言わずに、彼に頭を下げる。


彼は、ゆっくりと背を向け、船の乗り口へとその足を進めた。


一歩、一歩、ゆっくりと歩く。


船員が、早く歩くように、と急かしてきた。


急がなければ、甲板から皆を見ることが出来ない。


既に、客のほとんどが甲板で、自分たちを見送っている人たちに手を振っている。


これから訪れる会えない悲しみを、掻き消すように。


乗り口の所までやってくると、係の者が駆け寄ってきた。


「お客さん、遅いですよ」


「すみません」


荷物を運ぶ係りの者に怒られつつ、彼は乗り口にかけられた板の上を歩く。


ぎし、ぎし、と音がした。


「あの、僕が最後ですか?」


「恐らくね」


自分が歩き終われば、この板は外される。


もう、誰も乗ってこない。


荷物運びの係りが船の中に入った。


自分も、あと数歩で、船内に入る。


3歩、2歩。







そして、あと1歩。


彼は、その瞬間歩みを止めた。