藤木は、少しばつが悪そうな顔をして、牧の部屋へ恐る恐る入ってきた。
本来であれば、教室に居る時間だ。
「何故、ここにいるんだ?」
牧の顔が、珍しく怒っている。
藤木は、俯き加減で、独り言を言うかのように、ぼそぼそ喋る。
「・・・その、忘れ物をして、自分の部屋に戻ろうとしましたら、・・・その・・・」
「私を、見かけたのですか?」
「・・・はい」
藤木は、大きく息を吐いた。
緊張をほぐすかのように、ゆっくり息を吐いていると、
そっと隣に、タマが近付いた。
「藤木様に申し上げたいことがあります」
「はい?」
タマは藤木の前にたたずむと、
藤木に深々と頭を下げた。
「・・・今までのタマの無礼を、お許しくださいませ」
「そんな、無礼なんて。貴女の仰っていたことは、全て正しかったのですから」
藤木がにっこりと笑う。
いつもと変わらない、柔らかい色をその眼に浮かべ、
タマを見ていた。
タマは、顔を上げ、そして、藤木に釣られるように、にっこりと笑った。
「お嬢様は幸せ者です。
・・・貴方様のような殿方に出会えるなんて」
「そんな、大げさです」
「いいえ、決して大げさではございません。
貴方様なら、きっと幸花お嬢様を、『本当に』幸せにしてくださる」
本当に、の部分を強調して、タマは言うと、
牧の方を向いた。
「牧先生、そして藤木様」
タマは大きく息を吸った。
後戻りは、・・・もう、出来ない。
「私の話を、聞いてください」



