それから、1週間が経過した。


藤木は、毎日を淡々と、いつも通り、授業をこなし、ゼミをこなし、


論文の作成をこなしていた。


幸花の事は、特段口にすることはなかった。


牧も、あえてその話題には触れなかった。


ただ、牧の心の中には1つ、迷いがあった。


果たして、自分が『それ』を決意して良いものか。


そもそも、・・・黙認すること自体が許されるのか、


それが分からなかった。


息子のように可愛がってきた藤木を、幸せにしてやりたい。


その気持ちは、誰よりも強いと自負していた。


・・・しかし。


事が、大き過ぎる。


帝国大とはいえ、一教授の意思で、


もしかしたら日本の未来まで変えてしまうかもしれない。


牧には、自信がなかった。


そんな重荷を、背負い込むなんて。










とんとん。





昼下がり、いつもなら誰も訪れない時間帯に、ドアがノックされた。


来訪者だろうか。


牧は、ペンを握り動かしていた手を止め、立ち上がる。


ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けると。


「やぁ、牧先生。学会ぶりだね」


「野村先生!?」


「すまないね、事前に連絡なしに来てしまって。ちょっと、藤木君の留学の件で話があって」


ずかずかと部屋の中へ入っていく野村の背中を追いかけようとした時、


不意に、背後に人の気配を感じた。


野村の弟子か、従者か、そう思って振り向こうとした時。


「おぉ、そうだ、牧先生」


野村が、にっこりと、歯を見せて笑った。


「・・・どうやら、面白い話になっているようだね」