雨音色

「・・・え?・・・ウソ、でしょう?」


タマは、自分の耳を疑っていた。


しかし、目の前の、同じ格好をした彼女は、


少し恥ずかしそうな顔をして、小さな声で囁いた。


「・・・本当なの・・・」


赤らめた顔が、真実を語る。


一方、彼女の顔は青ざめていた。


「貴女、正気なの?相手は・・・山内家の次期当主なのよ!」


「しっ!声が大きいよ」


「・・・でも・・・」


タマは、深呼吸をした。


とにかく、落ち着かなければならない。


しかし、落ち着け、というのが難しかった。


なぜなら、目の前の同僚は、今、


自分たちが仕えている主人の後継ぎである一人息子と恋をした挙句、


結婚をする、と言ったのである。


身分に違いがあり過ぎる。


日本では知らない人間はいない、大財閥の1つ、山内家の次期後継ぎと、


平民出身の、山内家の使用人。


―――許される訳がない。


2人の関係を知っているのは、タマだけだった。


それすら周囲に知られないようにしなければならず、


タマが、しばしば、出来る限り2人の逢引を匿ってきた。


それなのに、


こんな状況で、結婚したいなどと言ったら、一体、どうなってしまうのか。


あの血の気の多そうな主人は怒りで卒倒してしまうのではないか。


あの気性の荒そうな奥方は、嫉妬と恨みで、


使用人たちを今まで以上にいびるのではないか。


タマの心配の種は尽きない。


「・・・あの、ね」


頭を抱え込んでしまったタマに、彼女は、穏やかな笑顔を浮かべて、


一言、こう言い放った。


「今の私は、・・・最高に幸せよ」