雨音色

彼の顔は、とても暗い。


眉間に寄せられた皺は、更に濃くなる。


この数十年の彼の苦悩が、そこにあった。


「旦那様」


しかし、タマも、決して部外者ではない。


山内家の奥方を、ずっと傍で支えてきた。


だからこそ、この場で発言する権利があった。


「・・・旦那様は、何のために結婚されたのですか?」


彼は、答えない。


ただ、視線は当てもなく宙をさ迷っている。


「ご自分の身分と違う人間と結婚しても、得たかった物は、何だったのですか?」


夏の終わりの夜には、もう蝉の声は聞こえない。


秋の虫たちが、切なげな声を上げて、歌を歌う。


静かな部屋に、虫の歌声が、響き渡っていた。


「・・・旦那様、


藤木様のことを報告した私が申し上げるものおかしいかもしれません。


しかし、1人の女中の言葉として、お受け止めください」


すぅ、とタマは大きく息を吸った。


全てを、覚悟していた。


今まで得たもの。


今まで記憶してきたもの。


これから、得られたかもしれなかったもの。


・・・全てを。


「この人以外愛せない、そう思った人と一緒になることは、最高に幸せだと、


私は・・・奥様を見て、そう考えております」






それは、もう、遠い、遠い昔。


タマが、・・・そう、今の幸花と同じ年の頃の話だった。